成長ホルモンと低身長2008.7.〜2008.9.

考え方
早朝、空腹、安静時のGH基礎値は2〜4ng/mlである。何らかのGH分泌刺激がされているとき、6ng/mlより高値のGHが1回でも測定されれば、分泌不全は否定される。小児慢性特定疾患のGH分泌不全性低身長の申請においては、すべてのGH測定値が6ng/ml以下であることとされる。一方、成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断の手引きでは2種類以上の分泌刺激試験において、検査所見を満たすもの。とされていて、微妙な違いがあるようだ。

さて、
脳下垂体前葉より分泌される成長ホルモンが不足すると身長の伸びが阻害される。現在製造されているヒト成長ホルモン製剤は遺伝子組み換えバイオテクノロジーにより量産されている。このため、遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤が不足するということは無いが、以前は脳下垂体より抽出した製剤が輸入され使用されていて、供給量の極端な不足のため、使用者は限られていた。遺伝子組み換えヒト成長ホルモンが使用可能となる以前は標準身長の-3SD以下あるいは-2.58SD以下で、下垂体性侏儒と診断されたばあいに投与の対象となった(文献2)が、成長ホルモンはなかなか手に入らなかった。
また、古い抽出法でつくられたヒト由来の成長ホルモン剤でのヤコブ病感染が報告され(文献3)、脳下垂体より抽出した成長ホルモン剤はまれに遅発性脳障害をきたすことがわかり、問題となったが、遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤にかわってからはこの心配は解消された。
製剤が潤沢に供給されるようになったことと、国家財政にまだ余裕のあったバブル期のころは成長ホルモン投与基準もゆるやかで、標準身長の-1.5SD以下のばあいも、ケースによって医療費全額公費負担の対象であった。平成の大不況が長引き、国家財政が厳しくなった現在、成長ホルモン投与基準は以前より厳しくなり、小児慢性特定疾患の公費負担も、保護者の年収により、自己負担分が生じる状況となっている。
奇異なことであるが、一見すると疾患の診断基準が遺伝子組み換え製剤の出現と、公費負担の2者に連動した形で変遷してきた印象を受ける。
現在、成長ホルモン分泌不全性低身長は、標準身長の-2.5SD以下の場合、小児慢性特定疾患の対象とされるようである。
最新の成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断の手引きでは、
『T 主症候
1 成長障害があること
通常は、身体のつりあいはとれていて、身長は標準身長(注1)の-2.0SD
以下、あるいは身長が正常範囲であっても、成長速度が2 年以上にわたって
標準値(注2)の-1.5 SD 以下であること』とされている。詳細は下記参照。


文献2によると、歴史的には、小人症の定義は以下の如くであった。
Wilkins:同年齢児より著しく小さいものを小人症という
Fanconiの教科書:身長年齢÷暦年齢X100;80〜60を小柄、60以下を小人症
Sobel:身長がー3SD以下を小人症
諏訪:−2SD〜−3SDを小人症の疑い。−3SD以下を小人症



T 標準身長の-2.5SD値  小児慢性特定疾患関連2008年資料より抜粋したデータ資料

U 検査スケジュール 最新改定2008.7.31   註:新しい検査スケジュールを作って文末に掲載した

                   成長ホルモン検査スケジュール(プリント用へ

氏名                 平成   年    月    日生まれ      歳    ヶ月
      月    日 身長    cm  体重    Kg  
右(両)手X-p正面、右膝関節X-p側面、頭蓋骨X-p2方向、
検尿一般、早朝尿3回尿中成長ホルモン外注。女児の場合は染色体Gバンド申し込み。
頭部MRI(矢状断を含めて)と脳下垂体MRIを申し込み。

    月    日  朝食禁。朝空腹時採血 (小児につき、必要最小量で)
CBC, GOT, GPT, ALP, LAP, Na, K, Cl, BUN, Creatinine, Ca, Pi, TP, Mg, Fe, TIBC, T-Cho, TG, 蛋白分画、IgG, IgA, IgM, IgE, T3, T4, freeT4, TSH, 血糖、ソマトメジンC(IGF-1), IGF BP-3,

    月    日 アルギニン負荷 (外来でも可)
朝絶食、30分安静を保ったあと、10%l-arginine-HCL溶液を6ml/Kgすなわち、    mlを30分で点滴す(なお、最高30g、300ccまで)。アルギニン点滴の前、点滴終了直後(=30分目)、60分目、90分目、120分目の計5回、血糖、成長ホルモン採血。血管確保はヘパリンロックまたは、生食10〜20ml/h  註;最近のarginineの量は5ml/Kgに減っている。

    月    日 L-dopa負荷 (外来でも可)
朝絶食。(生食10〜20ml/hで採血の血管確保orヘパリンロック)。30分安静を保ったあと、ドパール細粒10mg/Kg(最大500mg)すなわち、___mgを経口投与す。前値、30分、60分、90分、120分採血。血糖、成長ホルモン提出。

過去2年間の身長      年    月    日        cm  1年間の増加
                  年    月    日        cm            cm/年
                  年    月    日        cm            cm/年
糖尿病   肥満   腫瘍   甲状腺   奇形   免疫不全   精神遅滞
脳照射   父の身長____cm   母の身長___cm   出生時体重___g   在胎週数___週___日  出生胎位      鉗子分娩   吸引分娩        新生児仮死      新生児黄疸     二次性徴       低血糖

《入院のうえ行う検査》
    月    日    午後or夕方に入院。 睡眠時の成長ホルモン測定
夕食後適当な時間に血管確保。生食10〜20cc/h またはヘパリンロック
夜間睡眠中に採血。成長ホルモン。20分ごとに計10回。
万一目を覚ましてしまったら、入眠後継続す。終わったら点滴抜去可だが、翌日の検査のため、そのまま継続点滴しておくほうが実際的。
    月    日    インスリン負荷 (前値と15分目と30分目は採血時に簡易血糖測定器でも血糖値をチェックする)
前夜夕食後は禁食。当日朝生食10〜20ml/h血管確保orヘパリンロック。30分以上の安静を保ったあとに実施。レギュラーインスリン(ヒューマリンR U-100→1000単位/10ml0.1単位/Kgを生食3〜4mlに混ぜ静脈内注射Dr.施行。前値、15分、30分、60分、90分、120分に血糖、成長ホルモン提出。 【註:ヒューマリンR U100は100単位が1ml、1単位が0.01ml, 0.1単位が0.001ml, よって0.1単位/Kgは0.001ml/Kg】
  【注釈:空腹時血糖が60mg/dl以下の症例や、血糖上昇ホルモンの分泌不全が疑われる症例(GH,コーチゾール等の分泌不全)では、0.05単位/Kgとする;副腎皮質機能低下例、GH分泌能の完全欠損疑い例】

検査中は血糖低下(15〜30分にもっとも低下す)により、傾眠状態、発汗過多、などがみられることが多く、眠ったばあいは意識が保たれているかどうかチェックし、低血糖による意識障害、痙攣に備えて20%グルコース40ccを注射筒につめて、ベッドサイドにおく。

GH誘発のためには最低の血糖値が50mg/dl以下か、前値の血糖の50%以下に下降している必要がある。
☆コーチゾール、ACTH測定はEDTA-2Na添加試験管へ→速やかに冷却遠心し血漿を凍結保存



アルギニン負荷の副反応(文献5)
ショックの報告が散見される(賦形剤の問題であろう)との記載。酸性液のためアシドーシスを増強する可能性がある。
副作用;発疹、蕁麻疹の過敏症。一過性吐気の消化器症状。アルギニンは強力なインスリン分泌刺激作用があるので低血糖のおこる可能性がある。

L-DOPA負荷試験の副作用(文献6)
嘔気、めまいなど

追加の負荷試験

グルカゴン負荷試験(文献5)
0.03mg/Kg,最大量1mg。 
採血時間;前、30分、60分、90分、120分、150分、180分
血糖、GH測定:血糖2倍に上昇あれば成功
副作用;反動低血糖(:検査終了後食事とか、糖液の点滴

クロニジン負荷試験(文献5)
0.1〜0.15mg/m2、最大量0.15mg(カタプレス 1Tab=0.15mg, 薬局に負荷試験に使用する旨説明し、計算量になるよう散にしてもらう。0.01mg未満は切り捨てる)
採血時間;前、30分、60分、70分、120分、(150分)
血糖、GH測定
副作用;血圧低下、眠気、食欲低下(血圧30分おきモニター)、呼吸抑制、錯乱の報告がある

V ヒト成長ホルモン治療開始の基準  小児慢性特定疾患2008年資料より抜粋


W成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長の診断と治療の手引き 文献1よりコピペタ

成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断の手引き
T 主症候
1 成長障害があること
通常は、身体のつりあいはとれていて、身長は標準身長(注1)の-2.0SD
以下、あるいは身長が正常範囲であっても、成長速度が2 年以上にわたって
標準値(注2)の-1.5 SD 以下であること
2 乳幼児で、低身長を認めない場合であっても、成長ホルモン分泌不全が原因
と考えられる症候性低血糖がある場合
3 頭蓋内器質性疾患(注3)や他の下垂体ホルモン分泌不全があるとき
U 検査所見
以下の分泌刺激試験(注4)で下記の値が認められること(注5):
インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA 負荷、クロニジン負荷、またはグ
ルカゴン負荷試験において、原則として負荷前および負荷後120 分間(グル
カゴン負荷では180 分間)にわたり、30 分毎に測定した血清(漿)中成長ホ
ルモン濃度の頂値が6ng/ml(リコンビナントGH を標準品とするGH 測定法)
以下であること
V 参考所見
1 あきらかな周産期障害がある。
2 24 時間あるいは夜間入眠後3?4 時間にわたって20 分毎に測定した血清(血
漿)成長ホルモン濃度の平均値が正常値に比べ低値である。または、腎機能
が正常の場合で、2?3日間測定した24 時間尿または夜間入眠から翌朝起
床までの尿中成長ホルモン濃度が正常値に比べ低値である。
3 血清(漿)IGF-I値や血清IGFBP-3 値が正常値に比べ低値である。
4 骨年齢(注8)が暦年齢の80%以下である。

[判定基準]
成長ホルモン分泌不全性低身長症
1.主症候がTの1を満たし、かつUの2種類以上の分泌刺激試験において、
検査所見を満たすもの。
2.主症候がTの2あるいは、Tの1と3を満たし、Uの1種類の分泌刺激試
験において検査所見を満たすもの。
成長ホルモン分泌不全性低身長症の疑い
1.主症候がTの1または2を満たし、かつVの参考所見の4項目のうち3項
目以上を満たすもの。
2.主症候がTの1を満たし、Uの1種類の分泌刺激試験において検査所見を
満たし、かつVの参考所見のうち2項目を満たすもの。
3.主症候がTの1と3を満たし、かつVの参考所見のうち2項目以上を満た
すもの。

[病型分類]
成長ホルモン分泌不全性低身長症は、分泌不全の程度により次のように分類する。
重症成長ホルモン分泌不全性低身長症
1 主症候がTの1を満たし、かつUの2種以上の分泌刺激試験における頂値
がすべて3 ng/ml(リコンビナントGH を標準品とするGH 測定法)以下の
もの。
2 主症候がTの2または、Tの1と3を満たし、かつUの1種類の分泌刺激
試験における頂値が3 ng/ml(リコンビナントGH を標準品とするGH 測定
法)以下のもの。
中等症成長ホルモン分泌不全性低身長症
成長ホルモン分泌不全性低身長症の判定基準に適合するもので、うち「重症成長
ホルモン分泌不全性低身長症」以外のもの。

注意事項
(注1) 横断的資料に基づく日本人小児の性別・年齢別平均身長と標準偏差値
を用いること。
(注2) 縦断的資料に基づく日本人小児の性別・年齢別標準成長率と標準偏差
値を用いること。ただし、男児11 歳以上、女児9 歳以上では暦年齢を骨年
齢に置き換えて判読すること。
(注3) 頭蓋部の照射治療歴、頭蓋内の器質的障害、あるいは画像検査の異常
所見(下垂体低形成、細いか見えない下垂体柄、偽後葉)が認められ、それ
らにより視床下部下垂体機能障害の合併が強く示唆された場合。
(注4) 正常者でも偽性低反応を示すことがあるので、確診のためには通常2
種以上の分泌刺激試験を必要とする。但し、乳幼児で頻回の症候性低血糖発
作のため、早急に成長ホルモン治療が必要と判断される場合等では、この限
りでない。
(注5) 次のような状態においては、成長ホルモン分泌が低反応を示すことが
あるので、注意すること。
 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンによる適切な補充療法中に検査する。
 中枢性尿崩症:DDAVP による治療中に検査する。
 成長ホルモン分泌に影響を与える薬物(副腎皮質ホルモンなど)投与中:
可能な限り投薬を中止して検査する。
 慢性的精神抑圧状態(愛情遮断症候群など):精神環境改善などの原因除
去後に検査する。
 肥満:体重コントロール後に検査する。
(注6) Tanner-Whitehouse-2(TW2)に基づいた日本人標準骨年齢を用いること
が望ましいが、Greulich & Pyle 法、TW2 原法またはCASMAS(Computer Aided
Skeletal Maturity Assessment System)法でもよい。
(附1) 診断名は、1993 年改訂前は下垂体性小人症。ICD-10 では、下垂体性低身
長または成長ホルモン欠損症となっている。
(附2) 遺伝性成長ホルモン分泌不全症(type IA, IB, type II など)は、家族
歴有り、早期からの著明な低身長(?3SD以下)、GHRH 負荷試験を含むGH分泌刺
激試験で、GH値の著明な低反応、血中IGF-I、IGFBP-3 値の著明な低値などを示
す。遺伝子診断により確定診断される。
(附3)新生児・乳児早期には、分泌刺激試験の頂値が6ng/ml(リコンビナント
GH を標準品とするGH 測定法)以下を越えていても、成長ホルモン分泌不全を否定
できない。
(附4)強力なGH分泌刺激剤としてGHRP-2 の使用が承認された。成長ホルモン
分泌不全性低身長症の診断におけるGHRP-2 負荷試験の血清(血漿)GH基準値(カ
ットオフ値)はまだ確立していない。

X 鑑別疾患について


 A.低身長をきたす疾患
   小人症の原因(Willkinsによる) (文献2より) をやや改変した
1.骨疾患
    軟骨異栄養症
    Hurler症候群
    くる病
    化骨不全症
    椎骨疾患など
2.栄養および代謝疾患
    腸疾患、膵のう胞性繊維症
    慢性腎疾患(酸血症、くる病を伴う)
    肝疾患
    栄養障害、慢性感染症
    電解質障害
3.循環器、呼吸器疾患
    先天性心疾患
    慢性呼吸器疾患(無酸素血症を伴う)
4.思春期遅発症、体質性発育遅延
5.内分泌疾患
    甲状腺機能低下症
    下垂体機能低下症
     早熟症(早期骨端閉鎖を伴う)
6.原発性または遺伝性小人症
    家族性
    散発性
    性腺低形成症候群
    常染色体異常
7.他
    progeria;
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(ハッチンソンギルフォードプロジェリアしょうこうぐん、Hutchinson-Gilford Progeria Syndrome (HGPS ) )は、先天的遺伝子異常を原因とする早老症のひとつ。(Wikipediaより)


     cockain症候群
    重度脳障害
   


  成長障害の分類(Kaplan*)文献4より

1.原発性成長障害
 1)骨系統疾患:軟骨異栄養症、hypochondroplasiaなど
 2)染色体異常:Turner症候群、Down症候群など
 3)先天代謝異常:ムコ多糖症など
 4)子宮内発育不全:感染、薬物(タバコ、アルコールなど)、胎児栄養障害、母の重症疾患など
 5)成長障害を伴う症候群:progeria, Russell Silver症候群、Seckel症候群、Noonan症候群、Aarskogs症候群など
 6)体質性、家族性
2.二次性成長障害
 1)栄養障害:クワシオルコル、ビタミン、微量金属欠乏症
 2)消化管の疾患:Crohn病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、吸収不全症候群
 3)慢性腎不全:先天性腎形成不全、慢性腎炎など
 4)慢性心不全
 5)愛情遮断症候群maternal deplivation syndrome
 6)代謝異常:糖原病、アミノ酸・蛋白代謝異常など
 7)慢性感染症:発展途上国における寄生虫、AIDSなど
 8)薬物:グルココルチコイド
 9)血液疾患:鎌状赤血球症
 10)慢性呼吸器疾患:重症喘息など
 11)このほかの慢性疾患:dysautonomiaなど
 12)内分泌疾患
  a)成長ホルモン欠乏症(下垂体性小人症)
  b)甲状腺機能低下症
  c)性腺形成不全(Turner症候群)
  d)グルココルチコイド過剰症
  e)偽性上皮小体機能低下症
  f)骨端早期閉鎖:アンドロゲン過剰
             女性ホルモン過剰
 13)体質性成長障害
*Kaplan,S.A.:Clinical Pediatric Endocrinology. Saunders, 1990. 


映画「ブリキの太鼓」の少年:自らの意思で成長を停止した。(大人になりたくない。大人は醜い)。(階段から転げ落ちただったかで。)そして自らの意思で成長を再開始した。慢性的精神抑圧状態(愛情遮断症候群など) に該当するか?


Y 検査の成績について

成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断の手引きによると、既述の如く、
U 検査所見
以下の分泌刺激試験(注4)で下記の値が認められること(注5):
インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA 負荷、クロニジン負荷、またはグ
ルカゴン負荷試験において、原則として負荷前および負荷後120 分間(グル
カゴン負荷では180 分間)にわたり、30 分毎に測定した血清(漿)中成長ホ
ルモン濃度の頂値が6ng/ml(リコンビナントGH を標準品とするGH 測定法)
以下であること


となっており、小児慢性特定疾患の申請基準も同様である。3種類の負荷試験データの書き込みスペースがあり、成長科学協会への申請も過去においては通常3種類の検査が行われていた。負荷試験を何種類行うべきかの指定が無く、負荷薬剤の指定もない。リコンビナントGH を標準品とするGH 測定法で一つでも血清(漿)中成長ホルモン濃度の頂値が6ng/ml以上あれば、成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症が否定されるのであれば、負荷試験の種類の選択と負荷試験の数の選定は微妙な結果の違いをもたらしかねない。以前は成長科学協会への申請時、血糖値の推移データ添付も必要だった時期もあった記憶だが定かでない。


低血糖の危険を冒すため、入院での検査とした。患者の負担も大きい。

負荷試験はGH分泌をみるものであることから、他の要因(食事、運動、ストレス等)が加わってもあまり気にしないで実施していいのでは?要は、6ng/ml以上の値が出るかどうかである。
一方、GHの正常値は空腹安静覚醒時で5.0ng/ml以下である。
netで調べると、成長ホルモンが、5.0ng/ml以上ならば血漿中ソマトメジン-Cとともに再検査をします。それでも、成長ホルモンとソマトメジンが高ければ、経口糖負荷試験という糖を飲んで、成長ホルモンを抑制してみます。それでも、抑制されず成長ホルモンが5.0ng/ml以上ならば、異常高値ですので、病気の可能性があります。http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1119458.htmlという記載があった。
正常では、高血糖はGH分泌を抑制し、低血糖はGH分泌を促進するということか。
文献8によると、低血糖は視床下部の糖レセプターを刺激し、GRFの分泌を促し、その結果下垂体からのGH分泌が促進する。

このケースのばあい、低血糖の危険を冒して実施したインスリン負荷試験であったが、GHの頂値は6ng/mlをわずかに超えた。
結果、成長ホルモン(GH)分泌不全は否定された。

ならば、負荷試験はあと不必要ということになる。

もう一度整理して考えると、診断にあたっては負荷試験は何種類必要なのであろうか???
低血糖のリスクという患者負担を思うと、もっとリスクの少ない検査で実施したいものである。結論はもうすこしあとに。


負荷試験はこれまで数十例実施した経験があるが、アルギニンの副作用は殆んど無かった。このケースは実施終了時一過性の立ちくらみの訴えと血圧の低下がやや見られたことから、循環系への影響が否定できない。文献ではショックの報告が記載されているが、今回はショックという状態ではなかった。
なお6ml/Kgで約30Kgから180cc使用したが、最近のマニュアルでは5ml/Kgとなっている。

さて、アルギニンは、成長ホルモン分泌を刺激する薬剤の一つであるが、その作用機序は、どのようなことか?能書きをコピペタしておくと、『アルギニンによる成長ホルモン(GH)分泌刺激は、ヒスタミンが関与しているともいわれ、その機序は複雑で、低血糖あるいはインスリン増加を介するものでないことが明らかにされている1, 2)。』と。さらに、『本品は下垂体機能検査に使用する。正常反応は個々の施設で設定されるべきであるが、通常正常人では注射開始後60〜120分でピークに達し、ラジオイムノアッセイによる血中成長ホルモン値は10ng/mLになる。しかし、前値が低値でかつ最高値が5ng/mLをこえない場合には再度本試験を行って判定することが望ましい。』との記載がされている。

本例はまさに正常反応を示している。


l-DOPA負荷ではGH分泌が低かった。

正常人はL-DopaによりGH↑ → GHには血糖上昇作用があるから、ドパミン(興奮すること)によりGH分泌も増える方向にいく → 交感神経が興奮する、つまり臨戦態勢になる訳だから、 血糖値を高めて、脳や筋肉がエネルギーを使いやすいようにする ...(concrete example 1st pageよりコピペタ)
l-dopaのGH上昇機序はどのようなものか。上の文からいくと、l-dopa負荷の結果は血糖値は上昇しそうだが?
文献8によると、カテコールアミンは視床下部のGRF分泌促進およびソマトスタチン分泌抑制を介してGH分泌を促進するとされている。

このケースでは血糖値変わらずだった。またこれまでの負荷試験の結果で血糖値が変動した記憶は無い。





結論として
リスクの少ないグルカゴン負荷を優先して行い、低血糖の危険を冒して入院してまでインスリン負荷をするのはこれからはやめとこうかと…。

1.L-DOPA
2.アルギニン
小児慢性特定疾患申請書類は負荷名を3つ書き込むことになっているので、
3.の候補はグルカゴン負荷かな…
外来でゆっくり順に行い、結果を見てGH頂値が6ng/ml超えたらその時点で終了ということか。

このケースはWillkinsの分類にてらすと、.思春期遅発症、体質性発育遅延または原発性、散発性と考えられる。Kaplanの分類では、1.原発性成長障害6)体質性あるいは2.二次性成長障害だが、.思春期遅発症の記載が無い。
思春期遅発症は14歳時点の判断となるので、経過観察とした。今後二次性徴の発現と、それに伴い身長の伸びが観察されることが期待される。体質性発育遅延も年長になるに従い、いつか伸び始めることが期待される。原発性、(散発性)小人症のケースは遭遇したことが無い。ちなみに、Caseの成長曲線は。

乳児期は平均の発育であったが、幼児期は平均から−1SDラインへとゆっくり下降、小学校はー1SDからー2SDへとゆっくり下降、中学でー2SDラインをわり、最近はー2.5SDラインもわった。身長、体重のバランスはとれている。といった状態にある。


同胞例の検討

褐色は患児
赤は長兄
黒は次兄

患児と長兄は同じ成長カーブ上にある。
次兄はむしろ大きいほう。

推測すると患児は長兄と同じ軌跡を描くだろう。
思春期遅発症と思われた。

Z 新しい検査スケジュール    プリント用へ
A.小児慢性特定疾患申請を考えているばあい(身長が標準身長のー2.5SD以下であること)
氏名                 平成   年    月    日生まれ      歳    ヶ月
      月    日 身長    cm  体重    Kg      体表面積      m2

過去2年間の身長      年    月    日        cm  1年間の増加
                  年    月    日        cm            cm/年
                  年    月    日        cm            cm/年
糖尿病   肥満   腫瘍   甲状腺   奇形   免疫不全   精神遅滞
脳照射   父の身長____cm   母の身長___cm   出生時体重___g   在胎週数___週___日  出生胎位      鉗子分娩   吸引分娩        新生児仮死      新生児黄疸     二次性徴       低血糖       同胞の身長・体重の傾向
1.身長が標準身長のー2.5SD以下であること。(年齢と月数相当の表で確認する)
2.身長と体重のバランスがとれていること。
3.IGF-1(ソマトメジンC)外注:200ng/ml未満(5歳未満のばあいは150ng/ml未満)を確認する。4.へ。
4.一般検査と画像検査施行。
検尿一般、末梢血一般, GOT, GPT, ALP, LAP, Na, K, Cl, BUN, Creatinine, Ca, Pi, TP, Mg, Fe, TIBC, T-Cho, TG, 蛋白分画、IgG, IgA, IgM, IgE, T3, T4, freeT4, TSH, 血糖
   右手X-p正面、右膝関節X-p側面、頭蓋骨X-p2方向
  a 他疾患の否定
  b 骨年齢判定。長管骨骨端部X-p。頭蓋骨X-p(トルコ鞍も読影)。5.へ
5.負荷試験
a     月    日 アルギニン負荷 (外来)
朝絶食。やむなく午後実施となる場合は3時間絶食として実施すること。30分安静を保ったあと、10%l-arginine-HCL溶液を5ml/Kgすなわち、    mlを30分で点滴す(なお、最高30g、300ccまで)。アルギニン点滴の前、点滴終了直後(=30分目)、60分目、90分目、120分目の計5回、血糖、成長ホルモン採血。血管確保はヘパリンロックまたは、生食10〜20ml/h  
b     月    日 L-dopa負荷 (外来)
朝絶食。やむなく午後実施となる場合は3時間絶食として実施すること。(生食500ccを10〜20ml/hで採血の血管確保orヘパリンロック)。30分安静を保ったあと、ドパール細粒10mg/Kg(最大500mg)すなわち、___mgを経口投与す。前値、30分、60分、90分、120分採血。成長ホルモン提出。

c グルカゴン負荷試験(外来)
朝絶食。やむなく午後実施となる場合は3時間絶食として実施すること。(生食500ccを10〜20ml/hで採血の血管確保orヘパリンロック)。30分安静を保ったあと、グルカゴン03mg/Kg,最大量1mgを皮下注射。 
採血時間は注射前、30分、60分、90分、120分、150分、180分
血糖、GH測定:血糖2倍に上昇あれば成功
副作用;反動低血糖(:検査終了後食事とか、糖液の点滴を検査終了後考慮すること)

d クロニジン負荷試験(外来) (グルカゴン負荷試験を選択しなかった場合、3つ目の負荷試験として。なお、血圧低めの児には選択しない。)
朝絶食。やむなく午後実施となる場合は3時間絶食として実施すること。(生食500ccを10〜20ml/hで採血の血管確保orヘパリンロック)。30分安静を保ったあと、カタプレス(クロニジン)0.1mg/m2、最大量0.15mg(カタプレス 1Tab=0.15mg, 薬局に負荷試験に使用する旨説明し、計算量になるよう散にしてもらう。0.01mg未満は切り捨てる)を内服させる。
採血時間;前、30分、60分、90分、120分、GH測定
検査終了後1〜2時間血圧監視してから帰宅させる。起立性低血圧に注意。
副作用;血圧低下、眠気、食欲低下(血圧30分おきモニター)、呼吸抑制、錯乱の報告がある。

6. 3つの負荷試験のGH頂値がすべて6ng/ml以下であることを確かめる。7.へ
7.一泊入院。
     月    日    午後or夕方に入院。 睡眠時の成長ホルモン測定
夕食後適当な時間に血管確保。生食10〜20cc/h またはヘパリンロック
夜間睡眠中に採血。成長ホルモン。20分ごとに計10回。
万一目を覚ましてしまったら、入眠後継続す。終わったら点滴抜去可

8.頭部MRI(矢状断を含めて)と脳下垂体MRIを申し込み。
  早朝尿3回尿中成長ホルモン外注。女児の場合は染色体Gバンド申し込み。


B.身長がー2SD以下であるがー2.5SD以上あるばあいまたは成長速度が2年以上ー1.5SD以下であるばあい
成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断基準にあえば、健康保険で診療が受けられるでしょう。

検査では入院不要。睡眠時の成長ホルモン測定は不要。

分泌刺激試験は2つで6ng/ml以下であること。
IGF-3の検査も追加。
末梢血検査、IGF-1,TSH,T3、T4、freeT3、骨年齢、脳MRI、女児の染色体検査、血糖、検尿、IgG,IgA,IgM、夜間尿中GH3回測定は必須


参考文献
1.成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断と治療の手引き 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
間脳下垂体機能障害に関する調査研究班
平成17年度総括・分担研究報告書, 2006
http://square.umin.ac.jp/endocrine/tebiki/001/001008.pdf
2.低身長の臨床 村上勉他、小児科 Vol21 No3 1980 金原出版 
3.下垂体性小人症 徳弘悦郎 諏訪誠三 小児の薬物療法’85 小児科診療 Vol 48 No10 1985
4.標準小児科学 第4版 医学書院 2000.4.
5.小児における内分泌検査マニュアル 改訂版 稲田浩他 1995.1.メディカルレビュー社
6.負荷試験の実際ー2006年版 小児内科 Vol38 No8 2006 東京医学社
7.アルギニン注「味の素}日本薬局方 塩酸L-アルギニン注射液
8.内分泌機能検査 成長ホルモン分泌能検査 窪田和興 児玉浩子 小児内科 Vol26 No7 1994-7 東京医学社
                                            キッズ健康トラブルへ

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