乳児喘息2008年8月

乳児喘息の定義
 笛声喘鳴(ピーピー、ヒューヒュー)を伴う、呼気性呼吸困難発作を繰り返すばあい、小児喘息とする。
 患児が2歳未満のばあいは、とくに乳児喘息といい、扱いに違いが生ずる。また、思春期喘息も特徴あり、別扱いされる。

喘息性(様)気管支炎について
乳児期後半から2歳ころを中心に、風邪をひくと咳は長引き、ぜこぜこゼーゼーと通常の風邪が治りが遅い児は喘息性(様)気管支炎と診断される。この児が乳児喘息を発症することもあるし、3歳以降、しだいに症状が出なくなるが、一部小児喘息に移行するケースもある。
このため、喘鳴があり、喘息性(様)気管支炎と診断したときは、喘息発作への移行に注意する必要がある。

喘息様気管支炎では、聴診などで、ぜこぜこゼーゼーと聞こえ、呼気の延長は無い。低調性喘鳴。
喘息発作ではピーピー、ヒーヒーと笛性喘鳴となり、呼吸は苦しく、呼気の延長が明らかだ。高調性喘鳴。
このように区別しているが、乳児喘息の小発作との境界はむずかしく、慎重に判断しなければいけない。

乳児喘息の診断
気道感染の有無にかかわらず明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返した場合に乳児喘息と診断する。ただし、エピソードとエピソードの間に無症状な期間が1週間以上あることを確認する。

鑑別診断
鑑別すべき喘鳴性疾患
1.急性喘鳴
   乳児(2歳未満)
     急性細気管支炎
     気管支炎・肺炎
     食物アレルギー
     クループ
     気道異物
2.反復性喘鳴
   乳児(2歳未満)
     乳児喘息
     喉頭・気管軟化症
     慢性肺疾患(新生児期の呼吸障害後)
     先天異常による気道狭窄(血管輪など)
     胃食道逆流症
     閉塞性細気管支炎
     心不全






乳児喘息症状と所見  発作の程度 文献5より

症状 理学所見・検査値
小発作 軽度喘鳴・陥没呼吸を伴うことがある Spo2≧96%
呼吸数30〜40/分
脈拍100/分程度
中発作 明らかな喘鳴・呼気延長・陥没呼吸 Spo2:92〜95%
呼吸数>40/分、
脈拍>100〜120/分
大発作 著名な喘鳴・呼気延長・陥没呼吸・チアノーゼ Spo2≦91%
Paco2 41〜60mmHg
呼吸数・脈拍は普段の2倍程度
呼吸不全 呼吸音・喘鳴減弱
チアノーゼ強度
Spo2<91%、Paco2>60mmHg
、呼吸数、脈拍は状態により変化




ぜんそく日記(小児用)での発作の説明

発作 遊び 睡眠 機嫌 食事 その他
大発作 動くどころでない 起座呼吸 話しかけても
返事ができない
食事ができなくなる 息苦しく、唇は
紫色になる
中発作 動きが悪い 夜中に何回か
目をさます
話しかければ
返事をする
食欲が落ちる 小発作と大発作
の中間
小発作 普通に遊ぶ 良く眠る 普通に話をする 普通に食事をする ヒュウヒュウと
いう音がする



小児気管支喘息の薬物療法における 適正使用ガイドラインwww.mhlw.go.jp/topics/2006/07/dl/tp0727-1a.pdfより4ページ目をお借りし画像で再掲。

乳児喘息重症発作時の症状(文献8or6)
1咳嗽が激しい(嘔吐することがある)
2喘鳴が著明(ときに減弱)
3胸骨上窩、鎖骨上窩、肋間の陥没
4頻呼吸
5鼻翼呼吸
6シーソー呼吸
7抱かれている方が楽(起座呼吸)
8寝ない(または、眠れない)
9チアノーゼ
10呻吟
11頻脈
12機嫌が悪い
13泣き叫ぶ(興奮)
14意識レベルの低下




発作の治療
文献2よりの資料を画像で表示。2歳未満の喘息発作の治療



乳児喘息発作時の治療  文献5より
β2刺激剤、ステロイド剤が主体
テオフィリン薬は、てんかんや熱性痙攣の患児には原則禁忌
2歳未満では、ウイルス感染や発熱の合併する喘息症例についてもテオフィリン関連痙攣の問題から使用しないほうがよいと考える専門医が増えている。

1.小発作
 吸入メプチン0.1cc インタール(または生食)2cc
 メプチンの反復吸入20〜30分間隔で3回まで

 β2刺激剤メプチン(ホクナリン)の内服または貼付

2.中発作
 基本治療は小発作同様
Spo2が95%未満では酸素投与
追加治療はステロイド剤の注射、輸液;サクシゾン5〜8mg/Kg 6〜8時間ごと
入院を考慮

ステロイド効果不十分ではイソプロテレノールの少量持続吸入(心電図モニター) Spo2 96% 以上保持する酸素投与

3.大発作
 入院
β2刺激剤の少量持続吸入、ステロイド剤の静注、輸液

追加治療;イソプロテレノールの大量持続吸入、あるいはアミノフィリンの持続点滴(β2刺激薬吸入の効果が不十分なときは、中発作からの使用も可)

4.重積発作
人工呼吸管理


イソプロテレノールの少量持続吸入
吸入用生理食塩水500ml+アスプール液(1.0%) 1〜5mlを加え超音波ネブライザーなどを用いて持続吸入する。
水分供給量は40ml/時とし、約12時間で噴霧する。開始時にアスプール濃度は、0.1ml/Kg/500mlまたは吸入速度30〜40μg/Kg/時を目安に。

当院では200倍アスプール口許持続
アスプール 1ml
生食    80ml
ワッサー 120ml(今後生食にする予定)
心拍160以上で一時中止
酸素テント25%〜30%収容 SPO2 96%以上維持
OMRON UltraNebulizer NE-U17;薬液は100cc  40cc/h目安で。

アミノフィリン;3〜4mg/Kg初期投与量   維持投与量 6ヶ月〜1歳 0.4mg/Kg/時
                                 1〜2歳未満 0.8mg/Kg/時

従来使用していたアミノフィリン製剤はしばりが多くなった。文献7で、loadingのあと、aminiphyrin持続点滴;1歳未満:0.01x週数+0.25mg/kg・時 ☆6ヶ月未満の乳児には使用しない
1〜10歳:0.9mg/Kg/時

当院では 初期投与量ネオフィリン5mg/Kg   たいていサクシゾン5mg/Kg併用。輸液に混ぜて、1時間で点滴
引き続いて、
aminiphyrin持続点滴;6ヶ月以上1歳未満:0.01x週数+0.25mg/kg・時 たいていサクシゾン7.5〜15mg/Kg/day 併用。24時間持続点滴で。
1〜10歳:0.7〜0.8mg/Kg/h  翌日テオフィリン血中濃度をチェック。

6ヶ月未満の乳児喘息発作の治療
6ヶ月未満の乳児喘息発作の治療にアミノフィリンが使用できなくなったため、治療の主体はβ2刺激剤とステロイド剤となった。
当院では小発作でも持続するときは入院のうえ、輸液と病状により酸素テントを使用。
β2刺激剤とステロイド剤で発作が軽快しないときは、上記のイソプロテレノール少量持続吸入を追加開始する。

  

  

喘息発作の誘因
 多くの誘因がオーバーフローした結果、発作になるとされている。
 1.アトピー素因
     吸入抗原:家の埃〜家ダニの排泄物や死骸蛋白〜ダニアレルギー:小児喘息の多くがダニアレルギーあり。
          犬毛アレルギー、猫ふけアレルギー(上皮、唾液にも強い抗原性あり、過敏なひとは猫には近寄らない)
          花粉:杉花粉、ブタクサ、よもぎ、ハルガヤ、オオアワガエリ
          その他たくさんの花粉
          真菌(かび)の胞子:アスペルギルス、ペニシリウム、クラドスポリウム、カンジダ、アルテルナリアetc
     食物アレルギー:そばアレルギー、ピーナッツ、etc
 2.感染症〜かぜをひいて引き続き発症
 3.
 4.
 5.気候の変動、天候の変動、台風(低気圧)の接近、季節の変わり目
 6.煙刺激;たばこの煙、お線香、花火、蚊取り線香、わら焼き、焚き火、etc
 7.
 
 


家庭での環境調整
 <ダニ対策>
 1.掃除
   電気掃除機でほこり、わたごみを吸引するが、吹き出し口からダニ死骸の細切れが吹き出されるので、窓は開放し、できれば、吹き出し口は戸外にむける。ダニ防止用のフィルターつき電気掃除機もあるようです。喘息児のいないときに掃除する配慮。
  2. たんすの上や電気傘のごみは、はたきをかけない。拭き掃除
  3. ふとんはあせや、ふけ、など食糧にし、ダニがふえやすい。天気の良い日は、日光にあて、乾燥させ、よくはたいたあとは、掃除機で吸引する。はたいただけであれば、ダニの蛋白成分吸引でアレルギー症状をおこす危険あり。生きたダニはふとんのかげに移動するので、布団干しは天気の良い日に繰り返す。喘息発作のひどいこで、ダニアレルギーがあるばあい、特殊な寝具が売られているが、購入するばあい、布団の選定は慎重に。
  4.現在の日本の家屋構造は機密性が高く、ダニの生え易い構造になっている。極力窓をあけ、日光をいれ、通風をはかり、ダニが生えにくいように。
  5.ダニの数 板:たたみ:じゅうたん=1:10:100
    フローリングがベスト。じゅうたんは撤去する。
  6.家具は少なくし、裏にたまるわたごみの量をへらす。
  7.ぬいぐるみはほこりがつきやすいので、おもちゃは木製、プラスチック製などほこりがつきにくく、洗いやすいものにする。

 <ペット対策>
  室内で飼わない。いぬ、ねこにアレルギーがあったら、飼育はあきらめる。

 <かび対策>
  浴室の壁、台所のかび除去
  室内に鉢植えは置かない。肥料にかびがはえる。

 <花粉対策>
  1.
  2.衣類についた花粉を叩き落として家に入る。
  3.うがい、洗顔、目を洗う。鼻の中も。
  4.窓は閉めて、空気清浄機。
  5.転地(杉花粉など何十キロメートルも長距離を飛ぶという事実もあります)

アレルギーマーチについて
 乳児湿疹が治りにくく、再発しやすいといったばあい、皮膚が過敏で接触性皮膚炎を起こしやすかったり、母乳に含まれる異種蛋白(卵白蛋白や牛乳の蛋白成分etc)を摂取したあと、IgE抗体を産生し、アレルギー反応をおこしたりしている場合があります。また、やがて乾燥肌が目につくようになることがあります。かゆみのため、引っ掻くと、そこが湿疹となっていったりし、アトピー性皮膚炎と診断されるばあいがあります。こういった乳幼児は、かぜをひくとゼコゼコしてかぜが治りにくく、喘息性(様)気管支炎と診断されることがあります。喘息性(様)気管支炎のこが将来気管支喘息になる率と、その既往のないこが将来気管支喘息を発症する率は同じだという報告もありますが、喘息性(様)気管支炎は気管支喘息の前段階と捉える考えもあります。やがて喘息発作を起こしたり、鼻水、鼻閉といった症状から、アレルギー性鼻炎の診断をうけたり、仮性クループを発症したり、目が痒く、アレルギー性結膜炎と診断されたりといった経過は、アレルギーマーチ(アレルギーの行進)といわれます。アレルギー反応を起こす場所が、皮膚、気管支、鼻、喉頭周辺、目と移って広まっていくさまをあらわしているようです。乳幼児期にかぜをひくと引き続いて同様にぜこぜこと喘鳴があり、喘息性(様)気管支炎と診断されても、他のアレルギー、アトピーの症状を示すことなく、アレルギーマーチをおこすことなく、おおきくなるこもいます。







文献2よりの資料を画像で表示。喘息児の重症度について(年齢共通)




発作間歇期の治療薬
小児喘息の治療は、いいかたが不適切かもしれませんが、流行がありました。(変調療法、脱感作療法、メジヘラ等の吸入は小児には危険、不適切といわれた時代、ステロイド剤の投与は小児は極力避けるべきといわれた時代、ステロイド剤の吸入は不適切といわれた時代、キサンチン製剤全盛期、RTC療法、キサンチン製剤の脳への影響報告、抗アレルギー剤の吸入療法、抗アレルギー剤の内服薬全盛期、抗アレルギー薬よりも?、喘息発作はアレルギーであるという考えから、炎症であると捉え方が変わった、最も強力な抗炎症剤であるステロイド剤の積極的選択へ)
喘息をどういう病態としてとらえるかによる、考えの変遷ともとれます。

これまで喘息はアレルギー性疾患であるとされていましたが、現在は喘息は炎症ととらえる、アメリカの学問が主流となっており、それにのっとった治療が選択されるようになっています。

治療薬の選択も重症度により、ガイドラインに決められているので、詳細は専門書に譲って、現在おこなっている概略を紹介してみる。

重症度は大雑把であるが、以下のようにしている。
1.軽症:時々、軽い発作がみられる。吸入で発作は軽減する。内服は、気管支拡張剤(β刺激剤)、テオフィリン(キサンチン製剤)
2.中等症:吸入で軽快せず、外来で点滴を要する(内容はステロイド剤とネオフィリン)発作を起こすケース
3.それ以上:入院を要する発作を起こすケース

1.軽症例の薬物治療
    1.抗アレルギー薬の持続内服(日本ではよく選択されてきた。)
    2.インタールの連日吸入をおこなうばあいもある
    3.(発作時の上記内服)
2.中等症およびそれ以上例の薬物治療
    1.抗アレルギー薬の持続内服
    2.インタールにメプチン0.05mlをくわえて1日1-2回吸入連日
    3.(発作時の上記内服)
    4.キサンチンRTCを選択する場合あり
    5.ステロイド剤の連日吸入(これが主流になった)

文献2よりの資料を画像で表示。2歳未満の喘息児の長期管理

参考文献:
1小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005、日本小児アレルギー学会作成、協和企画
2『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005(略称JPGL2005)』発刊のご案内http://www.iscb.net/JSPACI/i-20051129.html
3子どもの気管支喘息診療・指導ガイド、赤坂徹編集、国立療養所八戸病院院長、南江堂、2002
4吸入性アレルゲンの回避と環境改善、パンフレット、名古屋大学医療技術短期大学部教授、鳥居新平監修、ファルマシア・アップジョン株式会社
5今日の小児治療指針第14版 2006.5. 医学書院
小児気管支喘息の薬物療法における 適正使用ガイドラインwww.mhlw.go.jp/topics/2006/07/dl/tp0727-1a.pdf
7小児科当直医マニュアル 改定第10版 神奈川こども医療センター 小児内科編 診断と治療社
8小児気管支喘息の薬物療法における適正使用ガイドライン 2006.8.1 掲載 厚生労働省医薬食品局安全対策課 平成17 年度研究
日本アレルギー学会 http://www.iscb.net/JSPACI/oshirase/060801.html

                                         
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