腸重積2006.2.〜2009.6 (2014.10.追記最下段に)
腹痛・嘔吐・血便・腹部のしこりは腸重積の4徴
腸重積症は突然の急性発症で、病気の始まりを母親は何月何日何時何分からといえます。
1.腹痛:腹痛は激烈ですが、陣痛のように波打って増強、消退を繰り返し、腹痛間歇期もあります。
痛いといえないあかちゃんは、苦しそうな顔つき、蒼白な顔色、不機嫌、不活発さに注意し
観察します。
2.嘔吐:嘔吐で気づかれることが多い。腸重積が進行し、腸閉塞症状があきらかになるにつれて、
吐物は胃内容物から、胆汁を混じる黄色調となっていきます。
3.血便:腸重積が進行し、腸粘膜から出血するため、下血します。排便のみられないときは、
診断確定のため、浣腸施行。肉眼的血便がみられないときは、潜血反応RPHA検査で確認。
粘血便、トマトケチャップ様、イチゴゼリー状
4.腹部腫瘤:上腹部、臍上部に触れる。重積した腸管が触れるもので、ソーセージ様とも。
触れないことも多い。
6ヶ月過ぎから、1歳頃に多い
患児の多くが、生後3ヶ月から1歳のあかちゃんです。新生児から成人までみられるが、2歳以下が殆ど。
ほとんどが特発性で原因不明ですが、しばしば、かぜの先行感染を認めます。回腸末端の回盲部リンパ節の腫大が観察されることが多く、これが先進部の器質的病変ではないかと、私は推察している。
文献1)による腸重積の先進部及び病因改変+αです
Peyer板の肥厚:アデノウイルス感染など
回盲弁の肥厚
Meckel憩室
腸管ポリープ
腸管重複症
腸管原発悪性リンパ腫
シェンライン・ヘノッホ紫斑病
悪性腫瘍の腸管・腸間膜転移
良性腫瘍(血管腫、リンパ管腫、平滑筋腫、他)
術後腸重積症 小腸ー小腸型 後腹膜の手術後 2週間以内発症
ロタウイルスの関与
回盲部のポリープ
消化管出血による血腫
何度も腸重積を繰り返したり、3歳以上の例は器質疾患の検索が必要。
回腸末端部が盲腸にもぐり込み肛門側へ進行するタイプが殆ど。
これは小腸ー大腸型(回腸ー結腸型)
大腸ー大腸型(結腸ー結腸型)もあり
小腸ー小腸型もあり
高圧浣腸で整復します。
整復を直視できること、回盲部リンパ節など先進部観察することを考慮し
発症後数時間のケースはレントゲン透視下で20%バリウム微温生食混合液1000ccで整復している。
透視は最小にとどめるよう留意している。
空気注腸整復法
超音波観察での整復(エコー下整復)
など種々の整復方法が報告されている。
24時間経過例は手術になる可能性があり、造影剤はガストログラフィンを使用。
文献2)による手術適応
絶対的適応:消化管穿孔例
腸閉塞によるショックなどで全身状態が著しく悪い症例
非観血的治療で整復不可能な症例
相対的適応あるいは早めの開腹術を考慮する症例
小腸ー小腸型
器質疾患のある症例(ただし大腸ポリープによる結腸ー結腸型は整復後にポリペク)
通常、回腸結腸型であり、当院での経験例は回盲部リンパ節腫大が刺激となって先進部となり発症したと思われるケースである。
高圧浣腸で液面の低下が止まると、レントゲン透視で下図のような、カニバサミ様陰影が観察される。嵌入先進部までの造影剤のレントゲン像である。さらに液面が低下し、回盲部で再度停止する。このあと、回腸に液が勢い良く流入すると整復成功。つまり、整復で通常2回液面が停まる。
再発しないか一晩は観察入院
整復に成功したら、5〜6時間後から、経口開始してみる。最初は湯冷まし、麦茶などから。
鑑別疾患
腸回転異常
メッケル憩室
ミルクアレルギー
抗生物質起因性出血性大腸炎
溶血性尿毒症症候群
感染性腸炎
腸重積症例
No1 | No2 | No3 | No4 | No5 | No6 | No7 | No8 | |
平成年月日 | 10.12.4 | 12.4. | 12.7.22 | 14.10.30 | 15.3.25 | 15.5.31 | 15.7.7 | 16.11.8 |
年齢 | 1y7m | 0y6m | 0y9m | 1y0m | 3y9m | 1y0m | 4y10m | 0y7m |
性別 | m | f | f | f | m | f | m | f |
回腸ー結腸 | 回腸ー結腸 | 回腸ー結腸 | 結腸ー結腸型 | |||||
主訴 | 腹痛 | 嘔吐 | 嘔吐 | 嘔吐 | 3年前と同じ 1歳前にも |
嘔吐 | 腹痛 | 黄色調嘔吐 |
ころげまわ る腹痛 |
あり | 断続的啼泣 陣痛様 |
不機嫌 啼泣あり |
sl.poor active | 激烈な腹痛陣痛様 間歇期あり |
啼泣 | ||
顔色蒼白 | ill humor | あり | あり | 顔色不良 | 元気無し | 顔色蒼白 不活発 |
||
嘔吐 | 初日6回 | 頻回の嘔吐 黄色調 |
嘔吐 | 嘔吐 | 嘔吐数回 | 嘔吐5回 しだい黄色調 |
黄色調嘔吐 | |
便の性状 | トマトケチャップ様 | まっ赤な血便 暗赤色便 |
前夜赤っぽい便、赤茶色の便 RPHA(++) |
浣腸血液混入無し | グリ浣トマトケチャップ様 | RPHA+ | ||
腹部腫瘤 | ± | 触れず | 触れず | ± | 有り | |||
発症時刻 | 4/20 0:00amすぎ | 昼頃から不機嫌 16:00pm嘔吐2回 |
7:00am | 午前保育所で | 7/6 4:30pm | 朝 | ||
初発症状 | 嘔吐 | 嘔吐 | 嘔吐 | 腹痛嘔吐 | 腹痛 | 嘔吐 | ||
救外受診まで | すぐ | 1h(17:00pm) | ー | ー | ー | 9h | ー | |
小児科受診まで | 半日 | 約36〜42時間? | 13h30m | 3h | 3h42m | 1〜2時間 | 16h | 約4時間 |
先行感染のかぜ | あり | あり | 無し 下痢有 |
あり | 無し | |||
回盲部空虚 | あり | (-) | ありそう | あり | ||||
先進部病変 | 回盲部リンパ節炎 | 回盲部リンパ節炎 | (結腸ー結腸型) | 回盲部リンパ節炎 | ||||
転帰 | 整復前H病院小児外科医にコンサルト 整復後転院観察となる |
整復 3泊 |
整復 嘔吐のため2泊 |
腸重積画像
No1 1y7m |
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No2 1y7m |
ガストログラフィンテスト 6倍希釈ガストログラフィン1000cc〜1400cc使用 カニバサミ様陰影から整復進行 3回整復試みる サクシゾン 酸素2Lface mask一時 |
![]() |
![]() |
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No3 0y9m |
回盲部リンパ節腫大 |
double kidney |
target sign |
右上腹に小腸ガス集積 |
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No4 1y0m |
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No5 3y9m |
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No6 1y0m |
カニバサミ様 |
target sign(横断像) |
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No7 4y10m |
上にpseidokidney sign(縦断像) 下に右腎 いかにも腎が2個あるかのごとき(double kidney)にうつる。 |
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No8 0y7m |
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腸重積の起こり方 | |
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今日の小児治療指針第13版 2003年3月25日 |
ポリープあるいはポリープ様隆起病変や憩室の翻転部などを先進部にして、近位腸管が遠位腸管内に嵌入している病態 |
標準小児科学第4 版 2000.4.1. |
多くは、回腸末端のリンパ組織が先進部になるものと考えられている |
今日の小児治療指針第12版 2000年3月25日 |
腸管の一部がその連続する遠位腸管に嵌入することによって生ずる疾患 |
今日の小児治療指針第11版 1997年2月1日 |
ーー (先進部) |
標準小児科学第二版 1995.3.15. |
口側腸管が隣接する肛門側腸管の内側に入り込み、元に戻れなくなった状態 |
今日の小児治療指針第10版 1993年11月1日 |
腸管の一部がなんらかの原因で遠位腸管に嵌入すること |
今日の小児治療指針第7版 昭和62年11月1日 |
腸管の一部がそれより遠位の腸管に嵌入 |
小児内科 小児救急医療の実際 1984.11. |
なんらかの原因により腸管が下位腸管内に嵌入すると、腸間膜も同時に引き込まれ絞扼される。→嘔吐、腹痛 |
今日の小児治療指針第5版 1983年 |
腸管の吻側が肛門側内に入り込み重積をおこす |
腸重積症例続き
No | No9 | No10 | No11 | No12 |
平成年月日 | 20.1.30 | 20.8.14 | 21.6.20 | |
年齢 | 0y11m | 0y9m | 0y10m | |
性別 | m | f | f | |
パターン | 回腸ー結腸 | |||
主訴 | 嘔吐 | 嘔吐、不活発 | 嘔吐 | |
ころげまわ る腹痛 |
無し | 無し | 不機嫌 啼泣 摂食できない |
|
顔色蒼白 | 有 | 顔色蒼白 不活発 |
||
嘔吐 | 数回 | 有 | 嘔吐10回 | |
便の性状 | 浣腸 粘血便 |
外観血液混入不明 RPHA+ |
10:00am血便 粘血便 |
|
腹部腫瘤 | ± | 有り | ||
発症時刻 | 1月29日 | 8/13 15:00pm | 6/19 20:30pm | |
初発症状 | 嘔吐 | 嘔吐 | ||
救外受診まで | ー | ー | 18時間弱 | |
小児科受診まで | 1日 | 21h | さらに25分 | |
先行感染のかぜ | あり | あり | ||
回盲部空虚 | あり | あり | ||
先進部病変 | 回盲部リンパ節炎 | 回盲部リンパ節炎 | ||
転帰 | 整復 |
腸重積画像続き
No9 0y11m |
||||||
No10 |
||||||
No11 0y9m |
![]() 浣腸便外観血液混入無し しかし、RPHA(+) |
臥位Xp 臥位Xpでは異常をみつけづらい |
立位Xp |
target sign |
高圧浣腸スタンバイ 臥位で異常小腸ガス有 |
|
カニバサミ像 上の黒ガスは胃 |
カニバサミ像拡大 上の黒ガスは胃 |
一気に重積解除され肝屈曲部まで流入 |
そして回盲部で停まる |
回盲部リンパ節腫大有 用手整復加え整復す |
||
No12 0y10m |
2014.10.追記
ご両親に「腸重積です。高圧浣腸で整復します」と詳細を説明。
無事整復出来てほっとする。一晩観察入院してもらい、翌日元気に退院。 |
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参考文献
1)小児内科 Vol.18 No.11 1986,下痢・嘔吐・便秘、東京医学社;腸重積症p1867-p1872
2)小児内科 Vol.35,No7 2003.嘔吐、下痢、脱水ー症例から学ぶ、東京医学社
3)小児内科 Vol25 臨時増刊号 1993、嘔吐 主訴からみた外来診療
4)Bed-Side Memo(小児科) 小林登 監修
5)ひよこクラブ 赤ちゃんの病気&ホームケア 大百科、たまひよ大百科シリーズ
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