痩せと低身長2008.8.

はじめに
痩身傾向児の痩せの評価は、年齢別・身長別標準体重から肥満度を求める必要がある。年齢別標準体重から肥満度を求めると、−1SD,−2SDと身長が平均より低い場合、あるいは+1SD,+2SDと長身児のとき、値が不適切となる。

以下は文部科学省平成19年度学校保健統計調査http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/h19.htmよりコピペタ

都道府県別 痩身傾向児の出現率Excel
痩身傾向児とは
痩身傾向児とは,性別・年齢別・身長別標準体重から肥満度を求め,肥満度が-20%以下のものである。以下の各表において同じ。
  肥満度=(実測体重−身長別標準体重)/身長別標準体重 × 100 (%)

年齢別 都市階級別 設置者別 身長・体重・座高の平均値及び標準偏差Excelよりコピペタ

1 年齢別 都市階級別 設置者別 身長・体重・座高の平均値及び標準偏差(10-6)
2 女 (1) 計
身 長(p) 体 重(s)
平 均 値 標準偏差 平 均 値 標準偏差
幼稚園 109.8 4.72 18.7 2.63
115.7 4.90 21.1 3.34
121.7 5.17 23.6 4.02
127.4 5.51 26.6 4.89
133.5 6.18 30.1 6.01
10 140.2 6.79 34.2 7.14
11 147.0 6.76 39.5 8.15

身長と体重の相関表及び身長別体重の平均値Excel:997KB)よりコピペタ

1.身長と体重の相関表及び 身長別体重の平均値(42-25) 女−8歳

平均値(kg) 標準偏差(kg)
26.6 4.89
〜106cm
107
18.0 3.20 108
19.6 1.98 109
17.5 1.23 110
18.1 2.02 111
19.0 1.63 112
19.4 1.61 113
19.7 1.71 114
20.1 1.85 115
20.5 1.56 116
21.1 2.10 117
21.5 2.10 118
22.0 2.01 119
22.4 2.32 120
22.7 2.14 121
23.3 2.52 122
23.7 2.52 123
24.2 2.50 124
25.0 2.84 125
25.4 2.81 126
25.9 3.19 127
26.5 3.31 128
27.2 3.26 129
27.9 3.62 130
28.4 3.83 131
29.3 4.23 132
29.8 4.38 133
30.9 4.56 134
31.8 5.08 135
32.6 5.05 136
32.6 4.86 137
33.5 5.37 138
35.6 7.22 139
35.9 5.79 140
37.0 6.03 141
37.0 7.04 142
38.5 5.35 143
37.1 6.18 144
38.2 4.63 145
40.5 3.69 146
41.4 5.36 147
40.6 6.40 148
41.7 5.98 149〜


Case1 8歳3ヶ月 女児:学校健診でやせすぎと診断され受診する。
身長  116.6cm  体重  17.3Kg
生下時体重  2472g 身長     47cm   38weeks 3days pregnancy
成長曲線:下図参照




身長の評価
小柄

肥満度の測定とやせの評価

総合評価

低身長は-2SDを基準にしてもcase1は-1.8SDであり正常範囲

父の身長 177cm +1SD 体重 87Kg over+2SD    肥満度=(87-81)/81x100=+7.4%   標準体重71Kgとすると、肥満度は+22.5%
母の身長 157cm Mean 体重 40Kg -1.9SDくらい 肥満度=(40-53)/53x100=-24.5%
同胞の身長 体重;第1子 2歳時低身長低体重指摘される

体質性の正常範囲。体重は母、姉も同じ傾向がみられるが、母の肥満度は-20%をきっている。


過去のデータに照らしての再検証


8歳女児で身長116.6cmのばあいの標準体重は20.8Kgなので。
肥満度=(実測体重−身長別標準体重)/身長別標準体重 × 100 (%)に代入計算
(17.3Kg−20.8Kg)/20.8kg X 100 (%)=−16.8%
「痩身傾向児とは,性別・年齢別・身長別標準体重から肥満度を求め,肥満度が-20%以下のものである。」からこのケースは痩身傾向児にはあてはまらなかった。
低身長にもあたらず、痩身傾向児にも該当しない結果であった。
しかし、身長の推移はー2SD近くを通っており、低身長疑いとして、その検討をする必要はある。成長ホルモンについては、分泌不全の基準がー2SD以下、小児慢性基準ではー2.5SD以下となっており、パスしていいかなやましい。


女児成長曲線とCase1の位置            0歳〜4歳平均は平成12年度データ利用

年齢(歳) 身 長(p) 体 重(s)
sd-2 sd-1 身長平均 1sd 2sd Case1 sd-2 sd-1 体重平均 1sd 2sd Case1
0 48.9 3.1 2.47
1 73.9 69.7 9 7.35
2 84.3 78.6 11.2 9.09
3 92.1 87 13.1 10
4 99.6 93.3 15.5 12
5 100.36 105.08 109.8 114.52 119.24 99.4 13.44 16.07 18.7 21.33 23.96 13.2
6 105.9 110.8 115.7 120.6 125.5 103.8 14.42 17.76 21.1 24.44 27.78 14.1
7 111.36 116.53 121.7 126.87 132.04 111 15.56 19.58 23.6 27.62 31.64 15.4
8 116.38 121.89 127.4 132.91 138.42 116.6 16.82 21.71 26.6 31.49 36.38 17.3
9 121.14 127.32 133.5 139.68 145.86 18.08 24.09 30.1 36.11 42.12
10 126.62 133.41 140.2 146.99 153.78 19.92 27.06 34.2 41.34 48.48
11 133.48 140.24 147.0 153.76 160.52 23.2 31.35 39.5 47.65 55.8
12 140.08 146.04 152.0 157.96 163.92 27.5 35.95 44.4 52.85 61.3
13 144.36 149.78 155.2 160.62 166.04 31.5 39.7 47.9 56.1 64.3
14 146.06 151.38 156.7 162.02 167.34 34.54 42.57 50.6 58.63 66.66
15 146.72 152.01 157.3 162.59 167.88 35.88 44.09 52.3 60.51 68.72
16 147.14 152.47 157.8 163.13 168.46 36.96 45.18 53.4 61.62 69.84
17 147.28 152.64 158.0 163.36 168.72 37.06 45.38 53.7 62.02 70.34


Case1 Riの痩身度(再掲)

8歳女児で身長116.6cmのばあいの標準体重は20.8Kgなので。
肥満度=(実測体重−身長別標準体重)/身長別標準体重 × 100 (%)に代入計算
(17.3Kg−20.8Kg)/20.8kg X 100 (%)=−16.8%


成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症については他稿に詳述した。一部引用して
低身長について少し述べる。

Wilkins:同年齢児より著しく小さいものを小人症という
Fanconiの教科書:身長年齢÷暦年齢X100;80〜60を小柄、60以下を小人症
Sobel:身長がー3SD以下を小人症
諏訪:−2SD〜−3SDを小人症の疑い。−3SD以下を小人症
村上ら:上記に従う (文献2)

『成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断の手引きによると、
T 主症候
1 成長障害があること
通常は、身体のつりあいはとれていて、身長は標準身長(注1)の-2.0SD
以下、あるいは身長が正常範囲であっても、成長速度が2 年以上にわたって
標準値(注2)の-1.5 SD 以下であること
』 となっている。すでに述べたが、Case1はほぼー2SDラインをたどっていることから、成長ホルモン分泌能についての検索も考慮すべきかもしれない。最新の身長はー1.8SDであることから、微妙な状況ではある。

なお、小児慢性特定疾患の基準では−2.5SD以下の身長であることが成長ホルモン治療の給付の条件になっているようだ。

ちなみにCase1を成長曲線を利用してみると、
暦年齢は8歳3ヶ月、身長年齢は6歳7ヶ月:79÷99X100=79.8%;小柄ということになる。
成長曲線からの17歳半の推定身長は約150cm、推定体重は40Kgがうかがわれる。


 A.低身長をきたす疾患
   小人症の原因(Willkinsによる):同年齢児より著しく小さいもの (文献2より) をやや改変した
1.骨疾患
    軟骨異栄養症
    Hurler症候群
    くる病
    化骨不全症
    椎骨疾患など
2.栄養および代謝疾患
    腸疾患、膵のう胞性繊維症
    慢性腎疾患(酸血症、くる病を伴う)
    肝疾患
    栄養障害、慢性感染症
    電解質障害
3.循環器、呼吸器疾患
    先天性心疾患
    慢性呼吸器疾患(無酸素血症を伴う)
4.思春期遅発症、体質性発育遅延
5.内分泌疾患
    甲状腺機能低下症
    下垂体機能低下症
     早熟症(早期骨端閉鎖を伴う)
6.原発性または遺伝性小人症
    家族性
    散発性
    性腺低形成症候群
    常染色体異常
7.他
    progeria
     cockain症候群
    重度脳障害
   


  成長障害の分類(Kaplan*)文献4より

1.原発性成長障害
 1)骨系統疾患:軟骨異栄養症、hypochondroplasiaなど
 2)染色体異常:Turner症候群、Down症候群など
 3)先天代謝異常:ムコ多糖症など
 4)子宮内発育不全:感染、薬物(タバコ、アルコールなど)、胎児栄養障害、母の重症疾患など
 5)成長障害を伴う症候群:progeria, Russell Silver症候群、Seckel症候群、Noonan症候群、Aarskogs症候群など
 6)体質性、家族性
2.二次性成長障害
 1)栄養障害:クワシオルコル、ビタミン、微量金属欠乏症
 2)消化管の疾患:Crohn病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、吸収不全症候群
 3)慢性腎不全:先天性腎形成不全、慢性腎炎など
 4)慢性心不全
 5)愛情遮断症候群maternal deplivation syndrome
 6)代謝異常:糖原病、アミノ酸・蛋白代謝異常など
 7)慢性感染症:発展途上国における寄生虫、AIDSなど
 8)薬物:グルココルチコイド
 9)血液疾患:鎌状赤血球症
 10)慢性呼吸器疾患:重症喘息など
 11)このほかの慢性疾患:dysautonomiaなど
 12)内分泌疾患
  a)成長ホルモン欠乏症(下垂体性小人症)
  b)甲状腺機能低下症
  c)性腺形成不全(Turner症候群)
  d)グルココルチコイド過剰症
  e)偽性上皮小体機能低下症
  f)骨端早期閉鎖:アンドロゲン過剰
             女性ホルモン過剰
 13)体質性成長障害
*Kaplan,S.A.:Clinical Pediatric Endocrinology. Saunders, 1990. 

B.痩せをきたす疾患 ざっと羅列してみる

1.栄養の不足
 a.摂取カロリーと栄養素等の不足(食べ物が無い、食欲が無い、
 b.消化管吸収障害、消化器疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎含む)
2.内分泌疾患
 a.甲状腺(機能亢進
 b.間脳脳下垂体(アジソン
 c.副甲状腺
 d.
3.代謝性疾患
 a.糖尿病
 b.酸塩基平衡障害
4.先天異常
5.精神的、心因的
 a.拒食症、神経性食欲不振症
6.悪性腫瘍
7.慢性感染症(結核とか…
8.

同胞例の検討
Case1のsister Re(長姉)
身長、体重とも3歳7ヶ月までー2SDライン上を推移した。

姉Reのデータ
11歳10ヶ月
27.7Kg
136.2cm

11歳女子の
体重  SD     身長
Kg    Kg     cm
30.7   4.27    136
30.6   3.7     137


12歳女子の
体重  SD     身長
Kg    Kg     cm
31.7   4.95     136
30.9    3.76     137


30.6〜31.7Kgにあり、

肥満度(痩身度)は
(27.7-30.6)/30.6x100=-9.47%

(27.7-31.7)/31.7x100=-12.6%
Reは上のReと同一例。12yまで身長はー2SDライン上を推移しているのがわかる。体重もー2SDライン上だったが、−1.5SDくらいに増加傾向となってきた。

Case1のsister次姉Se

次姉Seの肥満度痩身度
11sai3kagetu
133.8cm
26.8Kg

11歳女子
133cmの体重は 29.2Kg平均値
これを標準体重として算出すると

肥満度=(26.8-29.2)/29.2x100=-8.2%


11歳女子
134cmの体重は29Kg平均値
これを標準体重として算出すると
肥満度=(26.8-29)/29x100=-7.6%


9歳9ヶ月までは身長、体重ともにー1SDライン上を推移していたが、その後身長体重の伸びがちょっとにぶくなり、−1SDラインを割ってきたよう。

Case1のsister妹Ir
平成12年9月乳幼児身体発育調査結果から。
3年6月から12月女子中央値14.49Kg97.4cm

3歳8ヶ月 妹Ir15Kg 98.2cm

肥満度=(15-14.49)/14.49x100=+3.5%

3歳8ヶ月14.4Kg標準とすると、
肥満度=(15-14.4)/14.4x100=+4.1%
3歳8ヶ月まで身長、体重は標準の推移。


Case1のbrother兄Yu
兄Yuの肥満度
9y1m

35.4Kg
132.2cm

132cm 9sai 29.1

肥満度=(35.4-29.1)/29.1x100=+21.6%

身長はきれいに平均身長のライン上にある。体重はやや増減みられたが、日付けが正確にプロットされていなかったり、衣服のままの測定したデータも含まれていたせいかもしれない。6歳まではほぼ平均値の近くを推移していたが、その後体重は増加に転じ、+1SDライン上になっている。

体重のみを再掲してみた。
兄Yuの肥満度 (上記の再掲)
9y1m

35.4Kg
132.2cm

132cm 9sai 29.1

肥満度=(35.4-29.1)/29.1x100=+21.6%

参考文献
1.成長ホルモン(GH)分泌不全性低身長症の診断と治療の手引き 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業
間脳下垂体機能障害に関する調査研究班
平成17年度総括・分担研究報告書, 2006
http://square.umin.ac.jp/endocrine/tebiki/001/001008.pdf
2.低身長の臨床 村上勉他、小児科 Vol21 No3 1980 金原出版 
3.下垂体性小人症 徳弘悦郎 諏訪誠三 小児の薬物療法’85 小児科診療 Vol 48 No10 1985
4.標準小児科学 第4版 医学書院 2000.4.

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