学習障害2008.7. 2014.11追記DSM,ICD比較表 言語性学習障害と非言語性学習障害について2014.11追記
文部省の定義(1999年)(文献1,2,4から)
学習障害とは、基本的に全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち、特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。
概念(文献2から)
知的な発達に遅れがなく、本人が努力しているにもかかわらず、また生育環境や教育環境が十分であったにもかかわらず、その知的能力から期待される文字の読み書きや計算などの習得に困難がある状態
医学的にはDSM-Wにある読字障害、書字表出障害、算数障害などが該当するが、単独のものとして認められることは少なく、多くは混在している。
検査・診断
WISC-III 知能検査で、言語性IQと動作性IQの差
群指数(言語理解、知覚統合、注意記憶、処理速度)間の差異でも個人内差を呈する。
診断基準(文献1から)
1.IQ>70
WISK-VでVIQ・PIQ乖離>13〜15
各下位検査検査間差>7
各群指数間差>14〜18
WISK-V知能検査
結果 言語性IQ(VIQ)(言語性指数) 動作性IQ(PIQ)(動作性指数) 全検査IQ(全知能指数)
言語理解 知覚統合 注意記憶 処理速度
下位検査の結果 絵画完成 知識 符合 類似 絵画配列 算数 積木模様 単語 組合せ 理解 記号探し 数唱 迷路
病態(文献1から)
能力と業績の乖離が大きいことが基本的根拠となる。
LD児に内存する能力の差異(個人内差)が重要な病態である。
知能発達レベルに比し学力レベルが相対的に低い
LDでは情報の認識(入力)、情報の処理と記憶(統合)、ないしは情報の表出(出力)の過程で重大な混乱が生ずる。
医学的原因(文献1)
脳の物理的損傷(頭部外傷、脳炎、脳症、てんかん、頭部放射線被爆など)
極症未熟児
遺伝子異常
妊娠中の母胎の喫煙・飲酒
食品添加物
環境汚染物質など
学習障害の診断手順(文献2)
1.主訴の確認:認知発達に関する訴え、学業不振に関する訴え、など
2.症状の確認:読字障害の症状;p344参照(逐次読みなど)
書字障害の症状;p344参照(がっこうのっなどなど)
算数障害の症状;p344参照(位取りの理解などなど)
3.知能検査の実施
学業不振の確認
知的能力と学業成績に乖離があれば学習障害の可能性あり
4.@環境因子による影響の排除(問診など)
A学習障害のタイプ診断(症状を参考に)
B他の神経疾患との鑑別診断
C他の発達障害の合併の有無
並存する発達障害の有無(文献2)
学習障害とADHDの合併
dyslexiaとAsperger症候群の合併など
学習障害を軽度発達障害として捉える(文献4から)
特異的読字障害Dysrexia(文献8)
映画俳優のトム・クルーズは読字障害だそうです。
読字障害をもつ子どもたちは読みの障害だけでなく、書字や計算など学習に必要なさまざまの障害を合併することも知られている。
診断
@読字課題で読字障害を認める
A平均IQが80以上
B明らかな神経学的異常所見を認めない
特異的書字障害(specific developmental dysgraphia)(文献8)
特異的算数能力障害(dyscalculia)(文献8)
1.狭義の算数障害(計算障害)
1〜2年以上の遅れがある
2.広義の算数障害(数学障害)
1〜2年以上の遅れがある
LDの周辺群(文献8)
低出生体重児にみられる学習困難
発達性Gerstmann症候群;左右認知障害、手指失認、失算、失書
記憶障害 short memory loss?
ADHDにみられる学習困難
参考文献
1 学習障害 金澤治 小児内科 Vol.38 増刊号 2006 東京医学社
2 軽度発達障害Q&A Q55 p343 小児内科 Vol39 No2 2007 東京医学社
3 WISC-III 知能検査 日本文化科学社 http://www.nichibun.co.jp/kobetsu/kensa/wisc3.html
WISC-V 知能検査 http://www.saccess55.co.jp/kobetu/detail/wisc.shtml
4 軽度発達障害の臨床 横山浩之 診断と治療社
5 ITPA言語学習能力診断検査Illinois Test of Psycholinguistic Abilities 日本文化科学社http://www.nichibun.co.jp/kobetsu/kensa/itpa.html
6 ITPA言語学習能力診断検査 坂京子 斉藤久子 小児内科Vol.26No6,1994 東京医学社
2014.11.追記
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2014.11追記
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言語性学習障害と非言語性学習障害について2014.11追記
言語性学習障害、非言語性学習障害という用語はICD,DSMの分類では無いので、文部省1999、PRS[LD児(学習障害)・ADHD児診断のためのスクリーニング・テスト サクセス・ベル]、他を参考に自分なりに表にしてみた。暫定であり、間違えや、不十分な個所があったら、訂正補充の予定。
DSM-W−TR | DSM5 | ICD10 心理的発達の障害 |
文部省1999年 学習障害 | PRS サクセス・ベル | 他 | |||||
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言語性学習障害 | 学習障害 | 読字障害 | 限局性学習障害 | 読字の障害 | 学力の特異的発達障害 | 特異的読字障害 | 読む能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 | |||
書字表出障害 | 書字表出の障害 | 特異的書字障害 | 書く能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 | |||||||
算数障害 | 算数の障害 | 特異的算数能力障害 | 計算する能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 | |||||||
特定不能上3つ合併 | 学力の混合性障害・算数と読字or書字 | |||||||||
他の学力の発達障害<含>発達性表出性綴字障害 | ||||||||||
特定不能<含>知識習得障害 | ||||||||||
コミュニケーション障害 | 受容-表出性混合性言語障害 | コミュニケーション障害群 | 言語障害(話す、書く、手話、など):語彙の乏しさに起因? 語音障害(会話などで、語音の産出の困難) |
会話および言語の特異的発達障害 | 受容性言語障害 | 聞く能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 |
単語の意味を理解する力 指示に従う力 集団の中での話し合いを理解する能力 情報を記憶する能力 |
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表出性言語障害 | 特異的会話構音障害 表出性言語障害 |
話す能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 |
ことばの数(語彙) 文法 言葉を思い出す能力 経験を話す能力 考えを表現する能力 |
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てんかんに伴う後天性失語症 | ||||||||||
その他 | ||||||||||
推論する能力の習得と使用に著しい困難を示す状態 | ||||||||||
非言語性学習障害 | オリエンテーション | 時間 | ||||||||
土地 | ||||||||||
関係 | ||||||||||
位置 | 空間認知障害 | |||||||||
運動能力障害 | 発達性協調運動障害 | 運動障害群 | 発達性協調運動障害 | 運動機能の特異的発達障害 | <含>不器用な子ども症候群 発達性協調運動障害 発達性失行 | 運動能力 | 一般的な運動、バランス、手先の器用さ | |||
社会的行動 | 協調性、適応能力、責任感、心遣いなど | 社会性スキル障害 | ||||||||
参考文献
9 ICD-10精神および行動の障害 新訂版 医学書院
10 DSM-W-TR 精神疾患の分類と診断の手引 新訂版 医学書院
11 DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 医学書院
12 PRS[LD児(学習障害)・ADHD児診断のためのスクリーニング・テスト サクセス・ベル]
13 LDサブタイプ論 PRSによる類型化 隠岐 厚美 文教資料協会
14 天才と発達障害 岡 南 講談社