ノロウイルス感染性胃腸炎    2008.1.2.

                          2012.11.21追記


1.晩秋から初冬のころ発症する急性胃腸炎
秋も深まり、外気温が下がるころに、突然広域同時多発的に発病した吐く子たちが外来を訪れます。
下痢や発熱をともなうケースもありますが、比較的短時日で軽快します。小型球状ウイルスの仲間であるノロウイルスによる胃腸炎の可能性が高いが、ウイルスを検出したとの報告例は見つけれていません。寒くなると活発になるウイルスです。
今後、ノロウイルス検査が保険適用になれば、詳細が明らかとなるでしょう。
二次感染を起こす家族や同級生などが引き続き医療機関を受診し、小流行がみられます。


2.ノロウイルスとは
 2002年、国際ウイルス命名委員会がSRSV(小型球状ウイルス)のうち、ノーゥオーク様ウイルスをノロウイルスと命名しました。

3.ノロウイルスの検査
 外注検査で保険適応が無いため、2万円ほどかかります。ごく最近、2000円ちょっとでできるキットが販売されましたが、保険はききません。食中毒などのばあいは、保健所で検査しますが…。
2012年4月1日から3歳未満の患者などが保険適用となった。

4.ノロウイルスによる食中毒
 冬季、生牡蠣の生食によるノロウイルスの食中毒報告が多数みられます。12月に入ると、牡蠣の中腸腺からノロウイルスが検出されるようになり、1月がピークと報告されています。食中毒は他の二枚貝でも発症しており、注意が必要です。

5.二次感染予防対策
 ハイター(次亜塩素酸ナトリウム含有)に吐物や糞便を5〜10分浸す。アルコール等は無効。
また、ウイルスは85度以上、1分で失活する。
汚染物中のウイルスは乾燥すると空中に浮遊し、それを吸い込むことにより、集団発生の原因となります。
患者の糞便1g中に1億個以上、吐物1g中に100万個以上のウイルスが存在するといわれているが、ウイルス10個程度で感染、発病が成立すると記載されています。絨毯に吐いたばあいは危険ですね。汚れた衣類はウイルスが多数付着しているので、ハイターか加熱消毒が必要です。

6.ノロウイルス集団発生
 食中毒のばあいと二次感染事例と考えます。
老健施設や病院の集団発生が報道されます。死亡例があると、大きく取り上げられます。医療従事者や給食関係者は手指の洗浄を徹底し、普段の健康管理が求められます。
下痢、嘔吐患者が発生したとき、吐物や糞便の処理を誤ると、二次感染としての集団発生の危険にさらされることになります。
院内感染対策としては、標準予防策にあわせ、接触予防策の徹底。陰圧室は通常無理なので、排気はやむをえません。使い捨てプラスチックエプロン、マスク、手袋を使用し、前述のように吐物、糞便は次亜塩素酸ナトリウムで処理し、汚れた衣類はそっと回収して次亜塩素酸ナトリウムあるいは加熱処理が必要です。
学校での集団発生のケースでは、吐いた生徒の吐物を雑巾でふき取り、水道水で洗って、雑巾は乾しておいた。結果、乾燥して空中に浮遊したウイルスが吸い込まれて集団発生をみています。

7.ノロウイルス感染経路のまとめ
 晩秋のころ、気温が低下して活発となったノロウイルスにより、感染経路不明ですが、広域同時多発的に感染して嘔吐、人により下痢、発熱を発症させます。二次感染対策が必要です。
 吐物や下痢便のウイルスは下水を流れ、あるいは地下にしみこんで、河川から海に流れ込み、12月には牡蠣等の二枚貝の中腸腺に多く蓄積します。冬に牡蠣等の二枚貝の生食により、食中毒発生。二次感染の危険。
といった経路が考えられます。

食中毒や二次感染で発病したケースでの感染機序はあきらかですが、広域同時多発的に発症するウイルスの伝播様式はミステリーにつつまれているといっていいでしょう。十戒の映画シーンにある、疫病が襲ってくる空気感染のような状況が想像されてしまいます。今後の解明が望まれます。

8.鑑別疾患
 1.ロタウイルスによる胃腸炎
 2.インフルエンザB
 3.その他のウイルス;アデノウイルス、アストロウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルス、サイトメガロウイルス、など
 4.細菌性;カンピロバクター、サルモネラ、ブドウ球菌、病原大腸菌、など

9.治療
水分、ミネラルの補充に留意し、脱水にならないよう、吐き気がおさまったら充分補給します。通常下痢止めは使用せず、整腸剤の内服。嘔吐が強かったり、経口摂取不十分で脱水の危険にあるケースは点滴。

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10.小型球状ウイルス感染の併発症としてのけいれん
小型球状ウイルス感染に際し、無熱性痙攣をきたした症例の報告があります。このウイルスがノロウイルスであったと即断はできませんが、今後同様症例のウイルス検索が進むとあきらかになると思われます。自験例にも同様痙攣をきたした経験があり、次回はかならずノロウイルス検査を行うつもりです。


11.潜伏期間、症状 2012.11.21追記
潜伏期間は数時間から数日。主症状は吐き気・嘔吐、下痢。 症状持続は数時間から数日。他疾患があるなどの要因が無ければ重症化は少ない。(参考:青森県感染症発生情報2012年第45週)

参考文献
1)ノーゥオーク様ウイルスによる集団発生 西尾治 新川奈緒美、日本醫事新報 No4105 2002.12.28.
2)ウイルス性胃腸炎ー最近の動向 牛島廣治、小児内科 Vol.31 No12 1999-12
3)ノロウイルス感染症 渋谷紀子、小児内科 Vol.38 増刊号 2006
4)ウイルス性胃腸炎に伴うけいれん 小林正明 荒木和子 阿部敏明 小児内科 Vol.31 No4 1999-4

5)青森県感染症発生情報2012年第45週)

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